レースを盛り上げるための「追い抜き演出」は、世界的なムーブメント?

車・交通

 

オーバーテイク(追い抜き)のないレースはつまらない。でも、速いマシンに仕立てようと技術開発を進めていくと、走行中の状況の変化に敏感になり、速いんだけども余裕のないマシンになって追い抜きは難しくなってしまう。そこが、レースを面白く見てもらおうと願う側にとってはジレンマだ。前を走るマシンが空気を乱すので、その影響を受けて追い抜きが難しくなったり、走行ラインをずらすとタイヤかすを拾ってしまうので、その影響で追い抜きが難しくなったりする。


放っておいては追い抜きのチャンスは増えないので、ならば人工的に演出してやろうというのが世界的な流れだ。先鞭をつけたのはF1で、2011年にDRSを導入した。DRSとはDrag Reduction Systemの略で、ドラッグ削減システムのことである。ドラッグは空気抵抗と考えればいい。ドライバーがボタンやスイッチを操作するとリヤウイングの隙間が開いて効果を失い、空気抵抗が減って最高速が伸びる仕組みだ。

 

DRSをオンにすると、リヤウイングの隙間が開いて最高速が伸びる(写真右)


F1ではコースの1~3ヵ所にDRSを作動させていいDRSゾーンが設けられており、基本的にはレースのスタート後、3周目から使えるようになる。各DRSゾーンの手前には計測点があり、その計測点で前を走るクルマとのギャップが1秒以内の場合は、DRSゾーンでDRSを作動させることができる(前を走るのが周回遅れでも適用される)。


DRSゾーンによって異なるが、DRSを作動させると、作動させていないマシンよりも最高速が20~30km/h程度高くなる。歩いている人と、飛ばし気味の自転車ほどの速度差が生まれることになるので、乱れた空気の影響を受けようが、多少タイヤかすを拾おうが、速度差を生かして追い越しがしやすくなるというわけだ(成功率100%というわけではないが)。

 

 

■瞬間的な燃料流入で30馬力アップ

 

 

日本のスーパーフォーミュラやドイツのDTMでは、プッシュ・トゥ・パスという追い抜き演出デバイスを導入している(スーパーフォーミュラは「オーバーテイクシステム」と呼んでいる)。一時的にエンジンパワーを増やすことで追い抜きのチャンスを与えようという発想だ。


アウディRS5 DTM、BMW M4 DTM、アストンマーティン・ヴァンテージDTMが参戦するDTMには、2019年からプッシュ・トゥ・パス(P2P)が導入された。DTMは今シーズンから、日本のSUPER GT GT500クラスとほぼ共通規定の2.0L直4直噴ターボエンジンを搭載する。このエンジンの最高出力は610馬力だが、プッシュ・トゥ・パスを作動させると、瞬間的に燃料流量が5%増量され、30馬力パワーアップする仕組み。プッシュ・トゥ・パスはレース中に12回使用することが認められている。

 

 

DTMはさらに、DRSの使用も認めている。F1のリヤウイングは羽根が前後に2枚並んでおり、後ろ側のフラップを開くことでドラッグを削減する仕組みだが、DTMのリヤウイングは1枚ものだ。DRSを作動させるとリヤウイング全体が後ろに傾くことで空気抵抗を減らし、最高速を伸ばす仕組みである。DTMの場合、前を走るマシンとのギャップが3秒以内の状況で使用が可能で、F1より縛りが緩い。さらに、レースの最後の5周は先行車とのギャップとは関係なく、使い放題だ。エキサイティングな展開を作り出す狙いである。


ちなみに、DTMとほぼ共通規則のGT500(レクサスLC500、NISSAN GT-R NISMO GT500、ホンダNSX-GTが参戦)は、プッシュ・トゥ・パスもDRSも採用していない。追い抜きがなくてつまらないかといえば、そんなことはなく、人工的な演出など必要ないという判断だろう。

 

 

■フォーミュラEはマリオカートのような仕掛け!?

 

 

電気自動車でレースを行うフォーミュラEは、シーズン5(2018/2019年)と呼ぶ新しいシーズンから、「アタックモード」という新しいコンセプトを導入した。ステアリングホイール上に設けられたボタンを押しながらアクティベーションゾーンを通過すると、アタックモードが起動。レース中のモーター出力は200kWに(272ps)に制限されているが、一定の期間(イベントによって異なる)225kW(306ps)に出力が高まる。アタックモード起動中は、ハロ(頭部保護装置)に設置されているLEDがブルーに点滅し、観客やテレビ視聴者に知らせる仕掛けだ。


このアタックモードは45分間+1周に定められたレース中、決められた回数(イベントによって異なる)起動しなければならない。使い切らないとペナルティが科されるのだ。悩ましいのは、アクティベーションゾーンがレコードライン(速く走るための理想のライン)から外れていることである。アクティベーションゾーンをきちんと通過しないとアタックモードは起動しないため、ラインから外れたはいいがパワーアップせず、追い抜きを仕掛けようと思ったのに失速してしまうという間抜けな結果になることが、実際にある。


マリオカートでパワーアップアイテムを取り損ねたようなもので、見る側にしてみればなかなか滑稽なシーンだ。こういった仕掛けをファンが歓迎すれば、今後、似たような仕掛けが増えてくるだろう(当然、反対派もいるに違いない)。

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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